デザイナー 板坂 諭さん

 

MOEGIの読みもの第1回目となる今回は、MOEGIのプロダクトデザイン及びブランドデザインを手掛けてくださった気鋭のデザイナー板坂 諭さんのインタビュー記事をお届けします。

MOEGI代表の成瀬が、MOEGIのデザインが生まれるまでのストーリーについてお話を伺いました。

 

板坂 諭 (Itasaka Satoshi)
大学卒業後、設計事務所勤務を経て、2012年に建築事務所「ザ デザインラボ」を設立。
建築をベースに、プロダクト、アートの領域で注目を集める。
2016年には、ミラノのデザインウィークに参加。ミュージアム等に収蔵された作品もある。
作品集に『New Made In Japan The Works of h220430』(青幻社)がある。
現在エルメス社とデザイン契約を結び、世界的に活躍している。

 

 

全てに精通したデザイナーであるために

 

 

―今日はよろしくお願いします。

 

 

よろしくお願いします。

 

―以前、板坂さんが同じオフィスビルにいらした頃、毎年海外から若い研修生たちが板坂さんを目的に訪ねてくるのを見て、偉大なデザイナーさんなんだなと感じていました。
当時私は輸入化粧品の販売をしていたのですが、いつか自分のブランドを作った時に、何かしらの形で板坂さんに携わっていただけたら嬉しいなと、その頃から思っていたんです。
その後MOEGIを立ち上げた時に、真っ先に板坂さんにお願いした…という流れですよね。

 

ありがとうございます。ご説明いただいて。

 

―板坂さんは、建築デザインとプロダクトデザインの両方を手掛けていらっしゃるんですよね?

 

はい、そうですね。日本ではデザインに関してジャンルごとに分けて考えるのが一般的だと思うんですが、元々デザインの教育は「バウハウス」というドイツの芸術学校が始めたのが歴史なんです。バウハウスでは、「建築」がいわゆる総合芸術の頂点にあって、デザインや設計などは全てそこに含まれる、集約されるというのが根幹にあるんですよ。
例えば、バウハウスの教えでは、デザインとかものづくりのこと全般にある程度知識を持っているのが本来の姿なんです。そのため、「私はグラフィックをしています」「私は建築をしています」っていうのは、僕からするとあまりしっくりこないんですよ。

 

―なるほど。おもしろいですね。

 

バウハウスの初代の学長はグロピウスという建築家なのですが、そのグロピウスのバウハウス創立宣言文の中にも、「すべての造形活動の最終目標は建築である」、つまり「建築に全てが集約される」ということが書いてあるんです。

例えばレストランを設計する場合、実際の建築についてだけでなく、そのレストランのメニューのグラフィックをどういうデザインにすれば全体の空間と調和がとれるかなど、お客様から質問されることがあるわけです。
その時、「それはグラフィックデザイナーの仕事だから私にはわかりません」と言ったらそこで仕事が終わってしまうので、「ここの書体のこういうのがいい」「紙はこの紙がいいし、印刷の方法はこうしましょうか?」など提案をしながら、お客様に求められているところまで作っていく必要があります。
「建築をやっていたからグラフィックは苦手です」ではなくて、全てに興味を持ってやってきた結果、MOEGIのようなご相談をいただくことも増えて、今では何屋さんかわからなくなっているというところが本音です(笑)

 

デザインの力で、日本のすばらしさを伝えたい

 

―MOEGIでも、まず「こういう形で酵素ドリンクを販売していく」というコンセプトの話をさせていただきました。「萌木」という日本古来の言葉から、「息吹く」「芽吹く」「新しいことへのチャレンジ」などの意味合いを連想していましたね。カラーリングは「萌木色」という伝統色をもとに、最終的に今回板坂さんに作成していただいたデザイン・ロゴの色になりました。あの時オフィスにお邪魔して、世界に向けて販売していきたいという意図も含めてディスカッションしたことをよく覚えています。
板坂さんが、いちご・ブルーベリーのMOEGIをデザインした時のインスピレーションやコンセプトを教えてください。

 

 

今後の展望や含まれる成分など、MOEGIに関する情報を成瀬さんから色々インプットさせていただく中で、「日本のすばらしさを海外に知らしめたい」という想いの強さを感じました。
そこで改めて、海外の人にいかにわかりやすく「日本らしさ」を伝えるかがデザイン的に求められているなと思ったんです。僕は日本の良さというのは、もしかしたら西洋のデザインとは反対側にあるのではないかという気がしています。
西洋では基本的に、シンメトリー・均等・左右対称でわかりやすいデザインが受け入れられていますが、日本ではあまり形式的にモノを作らず、わざと崩したりします。そういったところは積極的に取り入れたいと思いました。カチッとした力強いデザインが海外では受け入れられる一方、どちらかといえば儚いくらいの雰囲気の方が日本的だなと。それが西洋の人から見ると新鮮で新しいだろうし、興味を持ってもらえるんじゃないかと考えました。
海外の人に、「ん?」と気になって振り返ってもらえるものは何かと考え、全体のデザインをまとめたというのがスタートラインです。

 

「引く」ことによって生まれる強さ

 

―板坂さんは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私がとある展示会に出た時、ある方に「MOEGIのロゴはちょっと主張がなさすぎる」というようなことを言われたんです。「もっと目立つように、ロゴを強くした方がいいんじゃないか」と。それが心に引っかかって、その当時、板坂さんに質問したんですよね。
その時に板坂さんは、「いや、それは正解だった」とおっしゃったんです。
なぜ正解かというと、そもそもそのロゴに対して異議を唱えてきたということは、それだけ注目されている証拠だと。その一言で、「そういうことか」と気づきました。
その後も「これからの時代背景を考えると、主張することが良しとされる世の中から、和を重んずるというか、むしろロゴがないくらい主張がないようなものが受け入れられる世の中になっていく」ということをおっしゃっていて、またそこで自信を持つことができました。色々な世界を見てきた板坂さんだからこその見解だと思いました。

 

 

サインやロゴなどは、頑張ればいくらでも主張ができるんです。実際、ニューヨークのタイムズスクエアや銀座の中央通りなど、ネオンで色んなロゴが煌めいて、どの広告もすごく主張していますよね。みんなプラスの方に力を出しているわけですけど、結果あそこを通って何か記憶に残ったかというと、実は何も記憶に残っていないんですよ。あそこのロゴは何一つ記憶に残らない。

僕が結構好きな逸話に、千利休が豊臣秀吉を招いた時の朝顔の話があります。千利休がいた大徳寺に朝顔がワッと咲いたことが京都中の話題になり、豊臣秀吉がわざわざ時間を作ってその朝顔を見に行ったんです。ところが、庭には朝顔がひとつもなかった。実は、千利休が全部摘んでしまっていたんです。

 

―全部摘んだんですか?

 

はい。豊臣秀吉が来ると聞いたからだそうです。その後、豊臣秀吉は怒って千利休の茶室に行くと、そこで千利休は静かにお茶をたてていて、その横に摘み取った中で一番綺麗な朝顔が一輪だけ飾られていたんです。それを見た豊臣秀吉はご満悦になり、喜んで帰っていったというお話です。

これは、どれだけ朝顔が咲いていても、実は一つ一つの朝顔のことは見えていないということ。いかに引いて、間引いて間引いて最高の形だけを残すかというのが日本的、千利休的なやり方で、西洋のやり方ではなかなか敵わないと思うんです。

MOEGIはちょっと引いた方がいいんじゃないかなと思って、そのお話を成瀬さんにしたんだと思います。

 

―そういうことなんですね。今おっしゃっていた日本的なデザインに関してですが、実はロシアやタイの展示会で、あのデザインに目をとめる外国の方は多いんです。近くに来て、「素晴らしいデザインだ」と。もちろん海外に限らず日本の展示会でもそうなんですが、やはりデザインが持つ力は人を引きつけるし、商品を説明しやすい環境を作ってくれますね。

 

「負けるが勝ち」の発想で生まれたデザイン

 

―少し話は戻りますが、世の中には本当にたくさんの酵素ドリンクがあって、どれもこれもみんな主張が強く、こんな野菜を使っている、あんな果物を使っているとアピールするデザインが多い気がします。
MOEGIはその中でも、先ほどのお話に出てきた朝顔ではないのですが、すごく控えめだけど凛としており、それが人の記憶に残るデザインになっているなと感じます。

 

西洋的なやり方よりも日本的なやり方の方が、MOEGIに対してはいいのではないかというのが、今回のデザインの根拠というか、想いですね。

 

―メインとなるいちごとブルーベリー2種類の原料をうまくモチーフにしたデザインになっていて、色も含めてすごくいいですよね。

 

ありがとうございます。成瀬さんがたくさんヒントをくださったので、色々と考えやすい環境でした。

 

―いえいえ、こちらこそ。デザインや空間って、作る人の主張というか想いがあまりにも強すぎると、それに合う人にはいいのかもしれませんが、本当に伝えたいものが埋もれてしまう可能性もありますよね。やっぱり引き立てるという意味では、一歩引いたデザインの方が人の記憶に残るのかもしれません。

 

建築っていうのは本来、強くて、かたくて、大きくてというイメージですが、隈研吾さんの「負ける建築」という著書の中では、「弱い建築こそが残る」というようなことが書いてありました。また、ある生物学者の方が「弱い方が生き残る」といった内容の本をちょうど出した頃だった気がします。

そういう時代的な考え方も含め、ガツガツ系よりも今回ご提案させていただいたようなもののほうが、これからの世の中の雰囲気に合うんじゃないかというお話をさせていただいたと思います。

 

―世界のトップデザイナーたちは、次に起こるであろう世の中の動きを、なんとなく肌で感じとっているのでしょうね。今後、和を重んじるような、日本が架け橋となれるような、そんな時代になってくるのかなと思っています。

 

そうですね。そうであるといいな、と思いますね。

 

―本日はお忙しいところありがとうございました。

 

 

 

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